法人化して役員報酬を決めるとき、「月給はキリのいい金額がいいかな」と何となく決めていませんか?
実は、その「キリのいい金額」が、かえって社会保険料を高くしてしまっているかもしれません。
役員報酬の月額がほんの少し違うだけで、年間の社会保険料が数万円も変わってしまう「等級またぎ」という落とし穴があるんです。
この記事では、一人社長や小規模法人の方が社会保険料で損をしないために、 - 「等級またぎ」とは何か? - どのくらい負担が変わるのか(具体例) - 自分の役員報酬が損していないか確認する簡単な方法
を、専門用語をなるべく使わずに分かりやすく解説します。
そもそも社会保険料はどう決まる?「標準報酬月額」のキホン
まず、毎月の給与から天引きされる健康保険料や厚生年金保険料(社会保険料)が、どうやって決まるかご存知でしょうか。
これは、実際の給与額そのものではなく、「標準報酬月額(ひょうじゅんほうしゅうげつがく)」という、給与を一定の範囲で区切った金額をもとに計算されます。
国が定めた等級表(2026年9月時点では健康保険は全50等級、厚生年金は全32等級)があって、自分の給与がどの等級に入るかで、支払う保険料が決まる仕組みです。
「なんだか難しそう…」と感じるかもしれませんが、大丈夫です。 「給料の金額によって、いくつかのランクに分けられて、ランクごとに保険料が決まっている」 とだけ覚えておけばOKです。
この「ランクの境目」こそが、今回ご説明する「等級またぎ」のポイントになります。
たった1円で年間約10.9万円の差(会社+本人)?「等級またぎ」の具体例
では、等級をまたぐと、どれくらい社会保険料が変わるのでしょうか。
2026年(令和8年)東京の保険料率で具体例を見てみましょう。
前提条件 - 社長1人だけの会社(東京都) - 45歳(介護保険料の対象。介護保険料は40歳から64歳までの方に適用されます。) - 役員報酬の候補が2つ - Aさん: 月額 634,999円 - Bさん: 月額 635,000円
AさんとBさんの役員報酬の差は、たったの1円です。 ところが、社会保険料の等級表に当てはめてみると、驚きの結果になります。
2026年(令和8年)東京の保険料率 - 健康保険料率:9.85% (会社負担 4.925% / 本人負担 4.925%) - 介護保険料率:1.62% (会社負担 0.81% / 本人負担 0.81%) - 子ども・子育て支援金率:0.23%(会社・本人各0.115%、2026年4月分から) - 子ども・子育て拠出金率:0.36%(会社のみ、厚生年金の標準報酬月額に適用) - 厚生年金保険料率:18.30% (会社負担 9.15% / 本人負担 9.15%)
- Aさん(月額 634,999円)
- 報酬月額605,000円以上635,000円未満で、標準報酬月額は620,000円
- 本人月額:620,000円 × (9.85% + 1.62% + 0.23% + 18.3%) ÷ 2 = 93,000円
- 会社月額:93,000円 + 620,000円 × 0.36% = 95,232円
- 年換算の社会保険料(会社+本人):188,232円 × 12 = 2,258,784円
-
年換算の本人負担:1,116,000円
-
Bさん(月額 635,000円)
- 報酬月額635,000円以上665,000円未満で、標準報酬月額は650,000円
- 本人月額:650,000円 × 30% ÷ 2 = 97,500円
- 会社月額:97,500円 + 650,000円 × 0.36% = 99,840円
- 年換算の社会保険料(会社+本人):197,340円 × 12 = 2,368,080円
- 年換算の本人負担:1,170,000円
年額は2026年4月以降の料率を12倍した比較用の年換算です。
1〜3月の料率差がある2026年の実際の年額とは異なります。
なんと、月給が1円違うだけで、年間の社会保険料が会社と本人合わせて約10.9万円も変わってしまうのです。
本人負担だけでも約5.4万円の差が生じます。
BさんはAさんより報酬を多くもらっているのに、社会保険料の負担増が大きすぎて、会社と個人の手元に残るお金(キャッシュ)は、かえってAさんより少なくなってしまいます。
これが「等級またぎ」の怖いところです。
せっかく頑張って稼いだ利益が、知らず知らずのうちに社会保険料として消えてしまうのは、とてももったいないですよね。
あなたの役員報酬は大丈夫?簡単な確認ステップ
「自分の役員報酬は損していないかな?」と不安になった方もいるかもしれません。
でも、ご安心ください。
以下の2ステップで簡単に確認できます。
ステップ1: 協会けんぽの「保険料額表」を開く
まず、ご自身の会社がある都道府県の「協会けんぽ 保険料額表」を検索して開きます。
PDFファイルで公開されています。
2026年度の比較には協会けんぽの2026年度保険料率と東京の2026年度保険料額表を使ってください。
ステップ2: 自分の報酬が「報酬月額」のどこにあるか確認
保険料額表の中に「報酬月額」という欄があります。
ここに「○○円~△△円」と書かれているので、ご自身の役員報酬(月額)がどの範囲に入っているか探してみてください。
例えば、上記の例で言えば、「605,000円~635,000円」の範囲であれば標準報酬月額は62万円、「635,000円~665,000円」の範囲であれば標準報酬月額は65万円となります。
もし、ご自身の報酬額が範囲の上限ギリギリ(例えば「605,000円~635,000円」の範囲で、報酬が634,000円など)なら、等級またぎのワナをうまく回避できている可能性が高いです。
逆に、範囲の下限に非常に近い(例えば「635,000円~665,000円」の範囲で、報酬が636,000円など)場合は、少し報酬額を見直すだけで、社会保険料を大きく節約できるかもしれません。
役員報酬はいつでも変更できるわけではないので注意
「じゃあ、すぐに役員報酬を変更しよう!」と思った方もいるかもしれませんが、少し待ってください。
法人税法上、役員報酬を会社の経費(損金)として認めてもらうためには、「定期同額給与」の要件を満たす必要があります。
原則として、事業年度の途中での役員報酬の変更は認められません。
変更が認められるのは、主に以下のケースです。
- 事業年度開始から3ヶ月以内の改定
- 職制上の地位の変更や経営状況の著しい悪化など、やむを得ない事由による改定
また、上記とは別に「事前確定届出給与」や「一定の業績連動給与」といった制度もあります。
社会保険上は、賃金の固定的変更等により「随時改定(標準報酬の改定)」が行われることもありますが、税務上の損金算入とは別の話になります。
決算前のタイミングで、次の事業年度の役員報酬をいくらにするか検討する際に、この「等級またぎ」の視点もぜひ加えてみてください。
まとめ:最適な役員報酬はシミュレーションで見つけよう
「等級またぎ」は、知っているかどうかで手元に残るお金が大きく変わる、重要なポイントです。
特に一人社長や小規模法人にとっては、見過ごせない節約術と言えるでしょう。
とはいえ、「自分の場合はどうなんだろう?」「もっと全体で最適な金額を知りたい」と感じますよね。
役員報酬の最適額は、社会保険料だけでなく、法人税や所得税、住民税も合わせて考える必要があります。
そんな複雑な計算を自動で行ってくれるのが、当サイトの「役員報酬決め方ナビ」です。
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決算前や法人設立時など、役員報酬を決める際には、ぜひ一度お試しください。
計算機は2026年分の所得税・2027年度の住民税に対応し、社会保険料は2026年4月以降の料率を12か月分に換算した概算です。
実際の暦年の徴収額とは異なります。
本記事の計算例は記事内で再計算したもので、計算機の出力ではありません。
社会保険料は制度別に端数処理するため、記事の合算による概算と1円単位の差が出る場合があります。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の税務判断については顧問税理士にご相談ください。